油入変圧器の経年劣化と診断

油入変圧器は長期間の運転中に温度や酸素、水分などの影響を受け劣化が進行します。その経年劣化を主な部位別に表すと第1表のようになります。その中で、変圧器の寿命に影響する重大な経年劣化について考えてみます。
変圧器は第1図に示すような構造をしており、構成する要素としては大きく次の三つに分けられます。
1、変圧器本体(タンク、鉄心、巻線、固体絶縁物)
2、外装品(ブッシング、ラジエータ、コンサベータ、パッキング等)
3、絶縁油

第1表 油入変圧器の主な部位と劣化
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この内、変圧器のタンクや鉄心、巻線(銅またはアルミニウム)の素材については、タンクの防錆処置等をしていれば通常の使用において30年程度では劣化しないと考えられます。また、外装品や絶縁油は劣化した場合には交換が可能であり、変圧器の寿命に直接影響する要素とはなりません。
変圧器の寿命は、通常では交換のできないもの、すなわち、巻線の導体被覆として使用される絶縁紙や巻線間にスペーサーとして使用されるプレスボードの劣化と密接な関係があります。
変圧器が長期間高温で運転されると、絶縁紙やプレスボードは経年的に熱劣化を生じます。特に絶縁紙は巻線に直に接していることから、変圧器の内部でも最も高温に曝されるため、絶縁紙の劣化が変圧器の寿命を左右する要素となります。
絶縁紙に要求される性能は絶縁性能と機械的性能であり、重要なのは絶縁性能では絶縁破壊電圧であり、機械的性能では引張り強度です。25年から35年運転した変圧器の絶縁紙を調査したところでは、絶縁破壊電圧はそれほど低下しない(10〜20%の低下)が、機械的強度(引張り強度)と平均重合度については大きく低下する(40〜60%の低下)という結果が報告されています。
絶縁紙の主要構成物質はセルロース分子であり、この分子の長さの目安となるのが平均重合度と呼ばれています。絶縁紙が熱的に劣化すなわち酸化すると、絶縁紙のセルロース分子間の連鎖が切断され、平均重合度が低下し引張り強度は低下します。第2図に絶縁紙の劣化過程を示します。セルロース分子は経年劣化の過程において化学的変化を起こし、アルコール類、アルデヒド類、フルフラール、カルボン酸などの有機物や一酸化炭素、二酸化炭素、水が生成され徐々に変質(劣化)していきます。絶縁紙が劣化した状態では、通常の運転では問題なくても、外部短絡等により巻線に電磁機械力が加わると、絶縁紙が破断する可能性があり、その状態で外雷や内雷などの異常電圧が入ってくると絶縁破壊の危険性が増してきます。このときの絶縁紙の引張り強度は、初期値に対する比率(引張り強度残率)が約60%と言われており、大型変圧器ではこの時点を変圧器の寿命とされています。

(1)平均重合度
絶縁紙の引張り強度は平均重合度と密接に関係しています。第3図は絶縁紙の平均重合度と引張り強度の関係を示しており、平均重合度の低下に伴い引張り強度が低下しています。
クラフト紙は新品時の平均重合度は800〜1000程度あるが、平均重合度が400〜500、引張り強度が初期値の60%に低下した段階で寿命と判断されます。
第4図は変圧器の運転年数と絶縁紙の平均重合度を調査した報告ですが、これによると、運転年数が30年程度になると平均重合度がほぼ半減することがわかります。


平均重合度の測定は、巻線の絶縁紙を採取して行えば確実ですが、運転中の場合は現実的ではありません。そこで、絶縁紙の劣化時に生成するCO、CO2やフルフラールという物質が絶縁油に溶解することに着目し、これを分析することで間接的に絶縁紙の引張り強度を推定し経年劣化度を診断する方法が行われています。
(2)CO、CO2による劣化診断
第5図は、CO+CO2の生成量と平均重合度残率の関係を加熱実験により測定したものです。
絶縁紙は酸素や水分の添加にかかわらず、CO+CO2の生成量と平均重合度残率は一定の関係があることがわかります。絶縁紙の引張り強度残率が60%を寿命の目安とし、これに対応する平均重合度残率を40〜50%とするとき、実験結果では絶縁紙の単位質量あたりのCO+CO2の生成量の目安は1〜4〔ml/g〕と報告されています。これは、絶縁紙の温度が均一な加熱実験で求められた値であるため、実機器に適用するための補正が加えられ、第2表に示す値が経年劣化度指標として用いられています。なお、CO、CO2による劣化度診断は、開放形変圧器では大気中に放散するため、密封形変圧器において適用されています。

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また、運用中に絶縁油の脱気処理や交換があった場合は補正し、CO+CO2の累積値を計算して診断します。絶縁紙の総質量は変圧器固有ですが、大体の目安としては変圧器総質量の30%程度といわれています。
(3)フルフラールによる劣化診断
フルフラールは、絶縁紙のセルロース分子が劣化分解して生成するアルデヒド類であり、沸点が161℃の液体であるため、常温で絶縁油に溶解します。このため、開放形変圧器においても大気中に逸散せず検出が可能です。第6図は、フルフラール生成量と平均重合度残率の関係を加熱実験により測定したものです。実験結果では、絶縁紙の引張り強度残率が60%となるフルフラールの生成量は0.023〜0.16〔mg/g〕と報告されていますが、絶縁紙の温度補正とフルフラールは絶縁紙への吸着があるため、これを補正して、第3表に示す値が経年劣化度指標として用いられています。変圧器の運用中に絶縁油の脱気処理や交換が行われた場合は、CO+CO2と同様に補正しフルフラールの累積値を計算して診断します。

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- 電気学会論文106A-7(1986)「CO2とCOによる油入変圧器の経年劣化度診断の研究」
- 電気学会絶縁材料・電力技術合同研究会資料(EIM-84-15)「油入変圧器の経年劣化とその診断」
- 電気学会技術報告㈼部230号「工場電気設備の寿命予知技術に関する調査報告」
- 電気学会静止器研究会資料(SA-84-50)「油入変圧器絶縁紙の劣化診断」
- 石油学会第12回絶縁油分科会研究発表会(1992)「油入変圧器のフルフラールとCO2+COとの関係」
〜終わり〜

